「綺麗になったね!」大規模修繕工事を終えて、足場が解体され養生も剥がされて全貌が見えてくると、感動を覚えるこの瞬間は誰しも同じかと思います。
しかし工事に関わること、業界の人間でなければ分からないことは多々あります。見積もりを提示されても、好し悪しの判断つかないものは往々にしてあります。
結局、監理会社や施工委託会社にお任せするしかないというのが実態かと思います。
でも業界の人間でなければ手も足もでないものでしょうか?
なんとなくの雰囲気でもつかんでいれば、物件を決める前と後で、「こんなはずじゃなかった」「そうだと知っていれば」というタラレバは無くせる部分はあるかと思います。
この記事はこんな人におすすめです。
ここでは、実際に分譲マンションの大規模修繕工事を経験して感じたことを、物件探しをしている方に向けて基礎知識としてお伝えし、住み始めてからのタラレバ後悔を回避していきます。
大規模修繕工事を終えて
修繕費用は大型マンションの方が実は割安
私の住むマンションでは1回目の大規模修繕工事がありました。約30世帯の工事で約3600万円ほどの工事でしたので、1世帯当たり120万円ほど負担をした計算になります。
なぜなら本業の足場工事でもそうですが、仮に100世帯のマンションで1億円の修繕費用だとした場合、それが50世帯だからといって半分の5000万円の工事にはなりません。
確かに、個数発注の材料費は数量が半分になれば、費用は半分かも知れません。しかし工事には仮設事務所や休憩所、仮設トイレ、水道など監督や作業員の必要とする最低限の設備は必要です。これらの必要設備は「共通仮設工事」といいますが、どの工事にも共通して必要な基本的な設備ですので、ボリュームが半分になったから経費も半分というものではないことは、ご理解いただけるかと思います。
ただし小規模マンションでは、大規模マンション特有の施設(機械式駐車場、コミュニティルーム等)がない場合が多く、その分は割安になる可能性はあります。
1世帯当たりの修繕負担費用は、世帯数の多い大型マンションの方が割安になる傾向があります。
タイル仕上げの外壁 表の顔と裏の顔
タイル仕上げの外観と塗装仕上げの外観とではどちらに魅かれるでしょうか。見栄えでタイル仕上げの建物を選ばれる方も多いかと思います。ですがいずれ訪れる修繕工事において、塗装仕上げの外壁と比較してメリットデメリットを感じるときはくると思います。
タイル仕上げ外壁の維持管理にまつわる実態
外観がタイル仕上げのマンションは見栄えしますよね。外壁の仕上げに手間をかけている分、当然のことかも知れません。
しかしタイルの修繕は事前調査では見込み概算しか費用は見積もれないことは、一般にはあまり知られていないことと思います。それは全数調査による積算には足場が必要だからです。実際に足場を架けるのは着工してからなので、調査結果(見積もり)次第によっては、予算を大幅に上回る可能性もあります。
幸いにして我が家のマンションでは、下地のコンクリートの施工が良質だったとのとことで、逆に見込み概算よりも低予算で収まりました。
私のマンションが建てられた時期は、後述でご案内するアネハ事件の直後であったため、特に業界全体がピリピリしていた時期でした。新築時の工事状況を入居予定者に公開して、施工管理の様子などを公開してくれたりと、入居者の信頼を獲得することに一生懸命でした。
入居者にも現場管理を公開して「見える化」されている現場は、安心できる物件の一つの目安かと思います。
アネハ事件後の施工品質管理に厳しくなった後の建物とは
アネハ事件とは、2005年11月17日に国土交通省が、建築設計事務所の姉歯元一級建築士が地震などに対する安全性の計算を記した構造計算書を偽造していたことを公表したことに始まる一連の事件を指します。
高層建物を建てる際には耐震設計は必須ですが、1981年の建築基準法改正により震度5に耐えるように設計されることになっていました。設計段階で、国土交通大臣認定構造計算ソフトウェアの計算結果から、建物の耐震性を判断します。姉歯元一級建築士はこの計算結果の偽装を繰り返して高層建物の建築設計行っていたという事件です。
2006年竣工の我が家マンションはまさに姉歯事件直後の建築施工業界大混乱の時期の建物ですが、施工時には施工の安全性をアピールする説明会に施工会社も一生懸命でした。
タイル仕上げと塗装仕上げ
いわゆる鉄筋コンクリートと呼ばれる構造物は、引張に強い鉄筋と圧縮に強いコンクリートがお互いの弱点を補強し合って成り立つ構造物です。
しかし地震等の原因により外壁に発生したひび割れなどの隙間から水が外壁内部に浸入し、コンクリート内の鉄筋が錆びてしまうと、錆びた鉄筋は膨張して、コンクリート外壁に亀裂や剥離を生じさせてしまいます。そうすると亀裂から更にコンクリート内部に雨水が浸入し、更なる鉄筋の錆びや雨漏りの原因という悪循環となっていきます。
そうならないために、コンクリート表面はタイルや塗装で覆ったりしているわけであります。
表面保護の方法をとしてアルカリ性の特性を持つコンクリートは、同じアルカリ性のモルタルで接着されたタイルと相性が良く、タイル仕上げの外壁はコンクリート保護の観点で優秀な防護材といえます。
一方でタイル仕上げ工事は、モルタルで下地をつくりタイル材を貼っていきますが、端部では構造体に合わせてカットしたりと手間がかかる作業であります。そのためタイル貼り外壁の施工単価は塗装工事よりも高価となってきます。
タイル仕上げの外壁で注意すること
塗装仕上げの外壁は基本時に全塗装しますので、塗りむらはありません。
しかしタイル仕上げの外壁では修繕調査の結果から、必要な箇所しかタイルの(下地も含めて)修繕は行いません。
壁つなぎの跡やひび割れ補修の材料として似た保管在庫があれば良いのですが、在庫の有無や種類によっては修繕部分だけ色味が変わってしまう可能性があります。
我が家マンションの大規模修繕工事では、補修用にタイルをオーダーメイド発注して、色味チェックをして、修繕工事に取り掛かった経緯があります。
注意点はオーダーから焼き上がり、納品まで期間がかかるため、先行して材料手配を進めないとなりません。
もしかしたら修繕工事の着工よりも先にタイル発注しなければならないかもしれません。そして、修繕に必要なタイル数は工事着工後の足場設置完了の後、外壁調査をしてからの算定になります。そのためある程度の推定で多めに発注をしなければならない状態も考えられます。
タイル仕上げの外壁 まとめ
見積りよりも安く収まった要因を検証してみる
我が家マンションで大規模修繕工事が行われましたが、当初は工事費約4500万円が見積もられていました。それが実際には約3600万円程度で収まり、修繕工事の検討当初、やってもやらなくてもと除外工事としていた部分を少し手を付けることができました。
要因としては
- タイルの下地のコンクリートの状態が良かった
- 建物形状が比較的工事しやすい形状であった
- 建物本体に直接作用しない部分(仮設工事)で仕様の見直しを行った
と推察できます。1に関しては前述の通りで、タイルの積算は推定によるものなので、実際に足場を組んで全数点検した結果、コンクリートの施工品質の良さに助けられた感はあります。
ここでは2と3について補足していきたいと思います。
建物形状が比較的工事しやすい
例えば何か作業(掃除、農作業、作図、色塗り…)をする場合でも、四角い簡単な形状と凹凸が多い複雑な形状ではどちらが効率よく作業が進められますか?答えは簡単に出ると思います。
直線部分だけであれば機械的にどんどん作業を進められますが、不整形な部分はどうしても手作業で進めないといけない部分はでてきますね。
建物工事においてもデザイン性や建物設置条件など要因は異なりますが、建築工事をする場合もその規模が大きいだけで同じことが言えます。
要は凹凸の多い建物はそれだけ手間が掛かる部分が多く、必然的に工事費用が割高となってしまいます。
私の本業である足場工事でもそうですが、斜めの敷地に合わせて出隅や入り隅が多い建物、陽当たりの関係でセットバックした段々畑の様なフロアは、部材も多く使用し同時に手間も余計に掛かります。
部材を多く使用する=材料費が余計に掛かってしまうということです。また手間が掛かると言うことは、人工や工期が余計に掛かる=費用が掛かるということです。
足場工事の手間が掛かると言うことは、他業種も作業が細かくなり、材料費や手間を多く要すると言って間違いありません。
仮設工事の見積検証
工事の見積もりをする場合、工事の仕様が決まっていない場合は、見積書は想定される様々な要素を考慮して作られます。
ただし、実際にはそこまででなくても良い場合もあります。
例えば、私がたまたま業務上の知見があったため削減できた実際の例ですが、
- 明らかに敷地に収まらない足場階段の設置は安全上や防犯上から敷地内に設置できる1ヶ所にする
- ちょっとした出入口の開口は梁枠※下記参照までは使用せず、足元を1スパン広くする程度にする
修繕工事費が安く収まるためのポイントまとめ
工事はシンプルな物の方が上手くいくケースは多く、四角い形状に近いほど簡素化されます。
そのことにより前述でご説明した、修繕工事費が見積りよりも安く収まった要因3点は次のように置き換える事ができます。
- 建物の偏った重心による地震の影響が軽減される。すなわちコンクリート躯体の局所への負担が少なくなり、ひび割れ発生が抑えられる。
- シンプルな建物形状であるほど作業効率が良い。
- 敷地にゆとりがあることでシンプルな施工が可能となる。
敷地にゆとりのあるシンプルなデザインの物件をチョイスした結果として、修繕工事費が安くなり月々の経済的負担が軽くなるのであれば、物件選びの検討事項として考えても良いのではないでしょうか。